マーケティングで因子分析を行う際に気をつけること

マーケティング分析

マーケティングのデータ分析では、因子分析がよく使われます。消費者へのアンケートで得た多数の回答を、少数の「購買価値観」や「意識の軸」に整理できるためです。しかし、分析すること自体が目的になり、その後の施策には使わない因子まで抽出している例も少なくありません。これは、とてももったいない使い方だと感じます。ちなみに、ここでは因子分析自体の説明や実行方法などは触れません。あくまでマーケティングでの実務利用における注意点です。

因子分析とは何か

因子分析は、心理学の分野で発展してきた統計手法です。直接観測することが難しい心理的な傾向を、複数の質問項目への回答から捉えるために用いられてきました。

例えば、商品を選ぶ理由について「価格が安い」「割引が多い」「費用に対する満足度が高い」といった質問への回答が似た動きをしていれば、その背後に「価格重視」という共通の因子があると考えます。このように、多数の観測項目の背後にある少数の概念を見つけるのが因子分析です。

マーケティングでは、商品の機能や価格だけでなく、消費者が何を大切にし、なぜ購入するのかという購買心理が重要です。そのため、消費者の価値観を整理する方法として因子分析がよく利用されます。

確認的因子分析と探索的因子分析

因子分析には、大きく分けて「確認的因子分析」と「探索的因子分析」があります。

確認的因子分析は、どの質問項目がどの因子と関係するのかについて、事前に想定した構造がデータに合っているかを確かめる方法です。一方、探索的因子分析は、質問項目の間にどのような因子構造があるのかをデータから探索する方法です。マーケティングの実務では、後者の探索的因子分析がよく使われます。

ただし、「探索的」という名称には注意が必要です。名称から、あまり仮説を持たず、思いつく限りの質問項目を入れて分析する手法だと受け取られることがあります。その結果、解釈はできても、その後の意思決定や施策には使わない因子まで抽出されてしまいます。

因子を見つけることと、因子を使うことは違う

学術研究では、未知の因子を発見すること自体が研究上の重要な成果になる場合があります。そのため、幅広い質問項目を集め、どのような因子が存在するのかを丁寧に調べることには意味があります。

一方、マーケティングでは、因子を見つけた後に何をするかが重要になります。どのような購買価値観(因子)を使って顧客を分類し、どのような商品を開発するのか、どのような広告で訴求するのかを考えなくてはいけません。具体的なアクションにつながらなければ、実務上の価値は限られます。

あるマーケティング・リサーチ企業は聴取した調査項目をすべて用いて因子分析を行い、「友情」という因子まで抽出されていたことがありました。もちろん、友人関係が購買行動に影響するという仮説があり、その因子を施策に使うのであれば問題ありません。しかし、分析で因子が抽出されたからといって、施策にも顧客分類にも使わないのであれば、その因子を作るための質問を継続して取得する意味は慎重に考える必要があります。

不要な因子は、その後の運用を複雑にする

特に問題になりやすいのが、因子分析で作った軸を使ってセグメンテーションを行う場合です。セグメンテーションとは、価値観や行動などの共通点をもとに、消費者や顧客をいくつかの集団に分けることです。

最初の分析では、多数の質問項目から因子を作り、その因子得点などを使ってセグメントを作ります(因子得点を用いてのセグメンテーションの賛否はここでは議論しません)。しかし、運用開始後に新しい顧客がどのセグメントに属するのかを判定しようとすると、原則として、最初と同じ因子構造を再現するための質問項目が必要になります。施策に使わない因子や項目まで含めてしまうと、その後も不要な質問を取り続けることになり、回答者と運用担当者の双方に負担がかかります。

質問を減らして因子構造を変えれば、以前のセグメントとの連続性が失われる可能性があります。その場合、新旧のセグメントがどのように対応するのかを検証し、新しい顧客を分類するためのモデルも作り直さなければなりません。

因子分析には、唯一の正解があるわけではありません。質問項目の選び方、因子数、回転方法などによって結果は変わります。それにもかかわらず、運用では過去の分類との整合性を保つ必要が生じます。ただし、過去の構造に合わせることは、その構造が正しいことを意味しません。最初の分析にノイズや不要な項目が多ければ、適切でない構造をそのまま維持してしまう可能性もあります。

探索的因子分析でも、使い道は先に考える

私は、探索的因子分析であっても、分析前に「どのような軸で消費者を分類したいのか」を考えることが重要だと考えています。完全に構造を決めつけるのではなく、施策につながる仮説を持ったうえでデータを探索するということです。

分析では、想定した因子が実際に抽出されるかを確認します。また、施策に使わない因子にだけ関係する質問項目や、複数の因子に曖昧に関係する質問項目があれば、内容と統計結果の両面から必要性を検討します。不要と判断した項目を除いた場合は、因子構造の解釈や安定性が損なわれていないかも確認します。欲しい結果に合わせて機械的に項目を削るのではなく、利用目的と測定したい概念に照らして判断することが大切です。

分析前に確認したい三つの問い

マーケティングで因子分析を行う前に、少なくとも次の三つを考えておくとよいです。

一つ目は、「どのような購買価値観で消費者や顧客を分類したいか」です。価格、品質、利便性、ブランド、社会性など、事業にとって意味のある軸を仮説として整理します。

二つ目は、「その購買価値観で分類できたら、どのようなアクションにつながるか」です。セグメントごとに商品、コミュニケーション、販売チャネルなどを変えられないのであれば、分類の細かさを見直す必要があります。

三つ目は、「継続して使えるシンプルな構造になっているか」です。新しい顧客を分類するときにも無理なく取得できる質問項目に絞り、現場で説明しやすい因子構造を目指します。

因子分析は、分析後からが本番

因子分析の結果には、正解はありません。だからこそ、統計的に因子が抽出できたかだけでなく、それが事業上の目的に合い、継続的に使えるかを評価する必要があります。

探索的因子分析は、何も考えずにデータを入れるための方法ではありません。どのような消費者理解が必要で、その理解をどのような施策につなげるのかを考えたうえで使うことで、初めてマーケティングに役立つ分析になります。

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